皆さんこんにちは!はてなクマです。
2019年4月に世界で初めてブラックホールの存在を直接的に証明する画像が撮影されたことが国際研究チームより発表されました。イベント・ホライゾン・テレスコープという8台の電波望遠鏡からなる巨大な地球規模の望遠鏡群を用いることで、ようやくブラックホールの撮影に成功したとのことです。光さえも脱出することのできない暗黒の天体を実際に撮影してしまうなんて、人類の科学技術もすごいところまできましたね。
ところで、今回その存在が確かめられたブラックホールは一体どのように出来るのか、皆さんはご存知ですか?宇宙の初めからあったものでしょうか?それともだれかが作ったものなのでしょうか?いえいえ、実はブラックホールは星の死によって出来るのです。この記事では不思議な魅力を放つブラックホールの誕生についてご紹介いたします。
恒星の大きさは何で決まるか?
ブラックホールのでき方について話すためには、まずは恒星についてのお話をする必要があります。恒星とは、自ら光り輝くことのできる星のことです。我々にとって一番身近な恒星は皆さんもよくご存知の太陽ですよね。
太陽などの恒星はその中心部で核融合反応を起こすことによって、膨大なエネルギーを作り出しています。これは私たちが普段よく目にする「燃える」という化学反応とは全く異なる現象です。太陽の中心部では、4つの水素原子をぶつけて、1つのヘリウム原子を作る核融合反応を起こしています。この時、反応の前後で質量が0.7%だけ減少します。実は、この減少した分の質量がエネルギーに変換されているのです。
アルバート・アインシュタインが提唱した「エネルギーと質量の等価性」を示す、
$$E=mc^2$$はとても有名な式ですよね。この式において\(E\)はエネルギーを、\(m\)は質量を、そして\(c\)は光の速度を表しています。実際に太陽が作り出しているエネルギーを計算すると、1秒間に日本が消費する電気エネルギーの4300万年分を生み出していることになります。これはとてつもないエネルギーですよね!
でもそうすると、別の疑問も浮かんできます。なんでそんな莫大なエネルギーを生み出しているにもかかわらず、太陽は吹き飛んで無くなってしまわないんでしょうか?
実はこれには重力が深く関わってきます。太陽などの恒星は核融合反応によって膨大なエネルギーを生み出し、星をどんどん大きくしようとする巨大な圧力が働いています。一方で、その巨大な質量は周囲の空間を歪め、大きな重力を生み出しています。重力が発生する原因はこの記事で解説していますのでご参考にしてください。
この巨大な圧力と重力が釣り合うことで、恒星は一定の大きさを保っています。
燃料を使い果たした恒星の辿る末路
エネルギーの源である核融合の原料「水素」が残りわずかになってくると、恒星に変化が現れます。星の中心部には核融合反応の燃えカスであるヘリウムが蓄積し始め、コアを形成します。このコアはより密度が高くなるため重力によってどんどん収縮し、重力エネルギーを外部に放出します。
一方、その外側ではまだ残っている水素が核融合を続けていますので、ヘリウム核から受け取るエネルギーとの相乗効果で、非常に高温になり星内部の圧力が一気に高まります。
その結果、今まで釣り合っていた重力と圧力のバランスが崩れ、恒星は次第に膨張を始めるのです。この結果生まれてくるのが「赤色巨星」です。太陽も今から50億年後には水素を使い尽くし、赤色巨星になることが予想されています。太陽が赤色巨星になるとその直径は200倍以上に膨れ上がり、地球を飲み込んでしまう可能性もあります。
それではほとんど燃料を使い果たして赤色巨星となった恒星は、その後どのような運命をたどるのでしょうか?実は、ここから先の星の進化は、その星の持つ質量と密接に関係しています。太陽ぐらいの質量の恒星からだんだん重い星に向かって、順番に見ていくことにしましょう。
太陽の8倍程度までの重さの星
太陽の8倍程度までの質量を持つ星が赤色巨星になり中心部での核融合反応が停止すると、それ以上エネルギーを作り出すことができなくなるため、中心核は次第に冷えていき超高密度のプラズマ状態になっていきます。(ここでは「冷える」と言う言葉を使っていますが、まだまだ私たちの常識的な温度からは相当高い温度を保っています。)
この段階になると、今まで内部から星を支えていた核融合反応の圧力がなくなってしまいます。ですので、赤色巨星の中心核は重力に負けてどんどん収縮していきます。この時、核融合の圧力に変わって星を支えるのは電子の縮退圧です。電子は狭い空間にたくさん閉じ込められると互いに反発する性質を持っているのです。一方、赤色巨星の外側はやがて重力を振り切り、宇宙空間に放出されていきます。
最後に残されるのは電子の縮退圧に支えられた、もはや輝くことのできない超高密度の中心核のみです。この中心核は質量に応じて炭素や酸素などの元素まで核融合反応を進めますが、いずれ限界に達して核融合反応を停止してしまいます。この天体のことを白色矮星(はくしょくわいせい)と呼びます。できたばかりの白色矮星はプラズマ状態を保っていますが、やがてほんとうに冷えて固まり、黒色矮星に変化していくと考えられています。
驚くべきは白色矮星の密度です。質量は太陽の数倍程度もあるのに、白色矮星になると地球と同じ大きさにまで縮みます(約100分の1)。その時の密度は500 \(\mathrm{kg/cm^3}\)にもなります。
これは、白色矮星を小さじ一杯( 5 \(\mathrm{cm^3}\) )だけすくうと、それがゾウさんと同じ重さになってしまうような密度です。どえらいことですね。。
もし、この白色矮星の上に立つことができたらどうなるでしょう。白色矮星は太陽程度の質量を持つにもかかわらず、地球程度の大きさを持つ超高密度の天体です。そのため、表面の重力もとてつもない大きさになります。それは地球上のおよそ10万倍もの重力になります。
どう言うことかって?それは、地球上で体重50kgの人が、白色矮星の上では5000トンになると言うことです!もう、膝が痛いとかそう言うレベルじゃないですね。
太陽の8-30倍程度の質量の星
実は、前述の白色矮星には限界の質量があります。もともと、核融合反応によって生み出されていた圧力の代わりに白色矮星を支えていた電子の縮退圧ですが、この縮退圧にも支えられる限界の質量があるんです。
ある質量よりも大きな核を持つ恒星では、電子の縮退圧でも重力を支えることができません。この質量のことを発見した人の名前にちなんで「チャンドラセカール限界」と呼びます。この質量を超えたとき核の内部では、陽子と電子が結合して中性子が生まれ、ニュートリノを放出する核反応が進みます。この反応が始まると、それまで恒星の核にあふれていた電子が一気に失われるので、中心核は凄まじい勢いで収縮していき、その時の衝撃波によって恒星の外側部分が一気に吹き飛びます。この過程を超新星爆発と呼びます。
超新星爆発が起こった後に残されるのはほとんど中性子でできた恒星の核「中性子星」です。ここでも中性子が非常に狭い領域に押し込められることによって発生する縮退圧が重力と釣り合って中性子星を支えています。
太陽と同じ質量を持った中性子星の直径はおよそ10 km程度しかありません。この中性子星は白色矮星も真っ青の恐ろしい密度を持っています。なんと5億 \(\mathrm{kg/cm^3}\)です。
え?なにそれ?って感じですよね。もはやぶっ飛びすぎてて想像すらできません。もし仮に、仮にですよ!小さじ一杯の中性子星をすくうことができたら、その重さは250万トンになります。これは世界最大の石油タンカー(総積載量50万トン)5隻の積載量と同じ重さです。たったスプーン一杯で、巨大タンカー5隻と同等の重さがある物質なんて想像できませんよね。
太陽の30倍以上の質量の星
もうね、ここまでで十分わけのわからない話しが続いてしまっていますが、ここらがクライマックスですのでもう少しお付き合いください。
恒星の核融合燃料が尽きる時、それは星の死を意味します。質量の小さな恒星が最期を迎えると、電子の縮退圧に支えられた高密度の白色矮星になるのでした。
さらに質量の大きな星が死ぬと電子の縮退圧だけでは重力を支えきれず、中性子星となります。この中性子星は白色矮星をはるかに凌ぐ超高密度の天体でした。
それでは、もっと質量の大きな星が死ぬと何が起こるのでしょうか?
実は中性子の縮退圧で支えられる質量にも限界があります。死んだ星の核がそれ以上の質量を持つ場合、もはや中性子星であっても重力に耐えきれずどんどん潰れていきます。
現代科学では、これ以上重力に抗う圧力を見つけられていません。つまり、星は無限に潰れていくことになります。
潰れていく星の中心核は重力によって周囲の空間を大きく捻じ曲げ続けます。
そのうち光さえも脱出することのできない暗黒の領域が宇宙空間にぽっかり穴を開けることになります。そう、これがブラックホールです。
ブラックホールの中ではすべての質量が一点に集中しており密度が無限大になります。そこでは現代物理学の理論が破綻してしまい、何が起こっているのかを知るすべはありません。
大きさを比べてみよう
ここまでご紹介したように、恒星は超高密度の天体となりその生涯を終えます。その行き着く先は恒星の質量によって白色矮星、中性子星、そしてブラックホールなど様々です。
それでは、これらの天体の大きさを比べるとどうなるでしょう。 質量が太陽と同じだった場合の白色矮星、中性子星、ブラックホールの大きさを比べてみました。
まず、太陽はどの程度の大きさなのでしょうか。太陽は直径139 \(\mathrm{km}\)、質量 2 \(\times 10^{30}\ \mathrm{kg}\)というとてつもない大きさと質量を持った天体です。ですが、密度は 1 \(\mathrm{g/cm^3}\) ですので、水と同じぐらいなので、以外に低密度の星なんですね。
一方、地球は太陽と比べると109分の1の直径しかありません。絵に描くとこんな感じです。
ちっさ!地球ちっさ!イッツアスモールワールドですね。私たち人間にとっては大きな地球も、太陽と比べてしまうととても小さな天体なんですね。
実は、太陽程度の質量を持った白色矮星は地球とほぼ同じサイズになります。ですので、何らかの力で太陽を地球サイズまでぎゅ〜っと縮めることができたら、それは白色矮星に変化すると思われます。
この場合、白色矮星と地球はほとんど同じ大きさですが、前述の通り白色矮星は恐ろしい密度を持ったプラズマの天体ですので、地球とは全く異なる存在です。
では、太陽をもっともっと小さく縮めてしまいましょう。太陽を直径10 \(\mathrm{km}\)まで縮めると、白色矮星よりもさらに高密度な中性子星になります。
10 \(\mathrm{km}\)というのはちょうど福島県の猪苗代湖くらいの大きさですね。ちっさ!
一緒に琵琶湖(滋賀県)も書いておきましたが、その大きさの雰囲気をお分かりいただけるでしょうか? 太陽ほどの質量を持った天体を、直径10 \(\mathrm{km}\)に縮める術はありませんが、もしそのようなことができたら猪苗代湖サイズの中性子星が出来上がることになります。
さて、上の絵にもひっそりと描いてあるのでお気づきとは思います。そうです、太陽をさらに小さくして直径3 \(\mathrm{km}\)以下にすると、とうとうブラックホールになってしまいます。
このサイズまで来ると、中性子の縮退圧が重力に負けてしまい、天体は無限に潰れ続けることになります。このブラックホールになってしまう最大の半径のことを「シュヴァルツシルト半径」と呼びます。
3 \(\mathrm{km}\)というと、ちょうど富士山の高さぐらいですね。太陽がここまで縮むとは夢にも思いませんが、ブラックホールがいかに高密度かということが想像できるのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?普段の我々の常識では想像することも困難な天体が、宇宙にはたくさんあふれています。白色矮星や中性子星、そしてブラックホールなど人間の科学力ではまだまだ完全に解明できていないことばかりです。
ですが冒頭でもご紹介したように、ブラックホールの直接的な撮影に成功するなど、科学者の方々は我々の住んでいる世界を少しでも理解するための努力を日々続けています。
皆さんも宇宙の神秘に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?