今から考えておかないとまずい自動運転がもたらす経済的リスク

  • 2020年8月14日
  • 2020年8月18日
  • マネー

皆さんこんにちは、はてなクマです。

ドライバーが操作しなくても車が自動で目的地まで走行してくれる自動運転は、近年のテクノロジーの進化によって完全自動運転はもはや夢の技術では無くなってきました。

自動運転は個人レベルで好きな時に、好きな場所へ、自由に移動することを可能とする素晴らしい技術です。しかし、完全な自動運転が実用化されるとこれまでの私たちの『移動』という概念が根本から覆されることになり、人々のライフスタイルや都市そのもののあり方を大きく変えていくことになります。

本記事では完全自動運転が普及した場合、私たちの生活にどのような変化が起こるかを考察してみました。

そもそも自動運転とは?

自動運転のレベル

国土交通省の発表した資料によれば自動運転は次の5つのレベルに分類されています。自動運転の詳細なイメージについてはBMWのWebページに大変わかりやすい説明があります。

レベル0

ドライバーが常にすべての運転操作を行う状態。

レベル1(運転支援)

自動車の運転に必要な加速・操舵・制動のいずれかをシステムが支援的に行う状態。衝突回避ブレーキや車線維持システム等の安全運転支援がその例。

レベル2(部分自動運転)

ドライバーの監視下においてシステムが加速・操舵・制動のうち複数を同時に行う状態。日産のプロパイロットやテスラのオートパイロットなどが該当する。

レベル3(条件付自動運転)

ある特定の環境下でのみシステムが責任を持って加速・操舵・制動を行うが、システムが要請したときは即座にドライバーが対応する必要がある状態。大変わかりやすい記事がありましたのでリンクを貼っておきます。

レベル4(高度自動運転)

基本的にはシステムが加速・操舵・制動を行うが、ある特定の条件下ではドライバーによる操作が必要になる状態。特定の条件下とは急激な天候変化や車両の不具合など突発的な走行条件の逸脱が起こる場合。

レベル5(完全自動運転)

完全な無人運転。全ての条件下において運転をシステムに任せることができる状態。

現在の自動運転開発状況

2020年では実用化されている技術はレベル2.5と言われています。一部のメーカーが採用している自動運転システムは高速道路において渋滞が発生している状態であれば、ドライバーは全ての運転操作をシステムに委ねることができます。ただし、システムの動作状況や車両周囲の状況も含めてドライバーが監視する必要があるため、技術レベルとしてはあくまでも自動運転ではなく『運転支援システム』の域を出ていません。

一方、2020年は自動運転に関する法整備においても一定の進捗がありました。これまで存在しなかった『自動運転装置を使った車両の利用』という概念が道路交通法に導入され、ドライバーの監視下にない運転が解禁になりました。これはレベル3の自動運転に相当します。

ただし、レベル3の自動運転下にあっても事故の責任はドライバーにあるとも定められており、法的にはレベル2とレベル3の間が少し曖昧になっているような状態です。

今後の自動運転の実用化時期

日本においても法的にレベル3の自動運転が解禁されたことにより、自動車メーカー各社が高度な自動運転システムの実用化に向けた取り組みを加速しています。

さらに先程述べた法改正によって、レベル3相当の自動運転においても事故の責任がドライバーにある、と規定されたことによりメーカーに対する障壁が下がり、自動運転の技術開発への追い風となっています。

国土交通省の示したロードマップでは2025年を目処にレベル5の完全自動運転を実現を目指しているようです。国内のメーカーでは日産が2022年の完全自動運転を、ホンダが2025年ごろにレベル4相当の自動運転技術の実用化を目指しています。

これらの自動運転技術の実用化時期については多少の遅れも出ると思われます。また、実用化されてからも様々な問題を乗り越えることによって、より洗練された技術へと発展していくことを待つ必要もあります。

ですが、確実なのは2030年頃にはほとんど全ての自動車にはレベル3以上の自動運転システムが搭載されており、人間が自動車の運転に関わる割合はかなり低くなる、と言うことです。

これはまさに自動車という物に対するパラダイムシフトであり、私たちの価値観を根底から覆す事態になります。すぐそこまで迫っている完全自動運転の未来が実現されたらどのような変化が起こるかを考えてみましょう。

自動運転が実用化されると何が起こる?

自動運転が導入された時に起きる私たちの生活の変化は、スマートフォンが登場した以上のものになることは間違いありません。

完全自動運転の実用化により自動車の保有台数が激減するという意見もありますが、おそらく現実はそのようにはならないでしょう。

低コストの無人タクシーが普及したとしても、不特定多数の人が利用することによる衛生面での問題や、無人運転でも乗客による器物損壊や事故への備えとして車内のカメラによる監視や位置情報の取得など、個人情報の漏洩リスクが大変高いためです。

また、自動運転車であっても自身の所有する自動車をライフスタイルに合わせてカスタマイズしたいという欲求はなくなることはないでしょう。

さて、それでは自動運転によって変化する私たちのライフスタイルについて考えてみましょう。

車は乗り物ではなく動くリビングになる

当然ですが、自動運転の登場は私たちの車との付き合い方を大きく変えることになります。それはもはや移動式のリビングとも見なすことができ、ドライバーという概念からユーザーという概念に切り替わります。

これまで通勤・通学に電車で片道1時間かけていた場合、朝ご飯を持って車に乗り込めば朝食をとっている間に目的地に到着することができます。また、駐車場を探す手間はなく、都市部であったとしても自動車は自律的に郊外の安価な駐車場を見つけ、命令があるまでそこで待機しています。

帰宅時もスマートフォンを操作するだけで、車は指定の乗降場所まで自動でやってきます。当然運転する必要なはいので、近くの居酒屋で一杯やっても全く問題ありません。

燃料の補給やメンテナンス、車検においてもスマホのボタンをタップするだけで車は自動的にディーラーの施設に向かい、目的を達成して帰ってくることでしょう。たとえ長距離の旅行であったとしても、車の中でくつろぎ、眠っていれば御目当ての観光地まで連れて行ってくれるはずです。

渋滞や交通事故がなくなる

完全自動運転車は常にGPSによって各エリアの混雑状況を把握し、近距離通信によって周囲の車両の運転状況をアップデートし続けています。また、完全なコンピューター制御による運転のため効率の悪い加減速や方向転換、無理な追い越しなどもしません。

そのため空いている道路を効率よく使うことができ、渋滞発生の要因も作りません。つまり現在の道路交通の大きな問題である渋滞や事故の発生が激減すると思われます。

国土交通省交通省アメリカでの交通事故調査によると、事故原因の94〜96%が人為的なものだそうです。つまり、人のせいで事故が起きているということになります。

だとすると完全自動運転によってヒューマンエラーが無くなれば、2019年現在に38万件起きたていた自動車事故が約1万5千件程度になり、3215人だった死者数が130人以下になります。

仮に、これらの全ての事故の責任がメーカー側にあるという法律が作られたとしても、保障額は自動車業界全体を通しても200億円程度で済むはずで、メーカーもコストとして充分吸収しうる額になります。

現在は自動運転の結果起きた事故の責任がドライバー側かメーカー側のどちらにあるか、という点で議論が巻き起こっていますが、技術が進むにつれてメーカー側が責任を負うことを許容できる環境が整ってくるともいえます。

保険会社が破綻する

一方で自動車業界のリスクが大幅に減ることは、そのリスクで飯を食っている保険会社の破綻を意味します。自動運転が普及しても生命保険や健康保険の需要は変化しませんが、自動車保険をはじめとする損保業界は大打撃を被るでしょう。

損保業界における自動車保険の市場規模は約5兆円で全体の60%以上を占めます。例えば業界トップの東京海上日動火災保険は平成29年度に自動車保険で1兆644億円の売り上げがあり、自賠責保険と合わせると全体の売り上げの6割を自動車関連に頼っています。

自動運転の登場によって自動車を運転することそのもののリスクが激減するので、保険業界からも自動車関連の収入がごっそり消えてなくなることになります。しかも、一時的なものではなく半永久的にです。

通常6割もの収入が途絶えた企業の存続は難しくなるため、自動運転によって新たな保険需要が起きてこなければ、保険会社の未来は明るくはないでしょう。

ガソリンスタンドが消える

ガソリンスタンドも保険会社同様に危機に陥る可能性があります。自動運転関連の技術は電気自動車(EV)と相性が良いため、将来の主流は電気自動車になるかも知れません。また、電気自動車は現代の環境負荷低減に対する考え方とも一致しており、長期的にガソリン車に置き換わっていくのは間違いありません。

さらに、動力が電気であれば自動運転車に指示するだけで充電スポットに行き、非接触形の充電施設で急速充電をして帰ってくる、もしくは自宅に駐車している間に充電を完了する、といったことができます。これは危険度の高いガソリンなどを燃料とする車には難しいことでしょう。

技術的なマッチング、環境問題、さらには利便性の観点からガソリン車は徐々に減って行くことは間違いありません。つまり、現在日本各地にあるガソリンスタンドはこの先10 年程度で大きな経営危機がやってくる可能性があります。

運転免許証が不要になる

レベル5の自動運転機能を搭載した車ではユーザーが操作することはありません。つまり、運転免許自体が不要になるか、もしくはごく簡単なライセンスのみになるでしょう。テレビを操作するのに免許証が不要なように。

一方、自動二輪車(バイク)やマニュアルで運転できる車も趣味的な用途として残り続けることが予想できます。このようなドライバーは車を嗜好品として運転しており、交通事故等のリスクを著しく高めている存在なので、運転免許試験のハードルが上がり、免許証の受験料や更新料、さらには関連する税金が極めて高くなるでしょう。

宅配便が激安になる

物流関係業界における自動運転の影響は甚大です。ネットショッピングの普及によって宅配業界が大変忙しくなっている昨今ですが、自動運転の登場はこの状況を180度変えてしまうでしょう。

個人宅への宅配物を届ける場合、最後の受渡しは人がする必要がありますが、都市間の集配センターを結ぶ運送は完全に自動化できます。また、置き配やドローンが普及すれば、最後の受渡しでさえ、自動で行えるようになるかも知れません。

これら物流業務の大幅な自動化はコストを圧縮するため宅配にかかる費用が劇的に安くなる可能性があります。実際に日本における宅配最大手のヤマト運輸は自動運転による宅配業務を実験的にスタートさせているようです。

道路網がさらに整備され超高速道路ができる

コンピューターによる自動制御によって自動車は事故リスクが低減されるため、高速道での走行もより高度かつ安全にできるようになります。日本各地を高速道路で結ぶことに対する需要も高まるため、今以上に高速道路網が整備されるでしょう。

また、人間の判断では危険な高速であっても自動運転であれば安全に走行できるため、現在の速度基準を大きく超える最高速度150 ~ 200km/時の超高速道路が誕生するかも知れません。

鉄道が衰退し地価が暴落する

自動運転の登場によって高速道路網が整備されると、鉄道に対する需要が激減することになります。自家用車であれば好きな時に好きなところへ、自由な時間を満喫しながら向かうことができるのに対し、電車は駅に向かう必要があり、不特定多数の人と同じ空間を共有し、運行時刻や終電を気にしなくてはなりません。

そうなると鉄道を利用する人はほとんどいなくなり、自家用車や無人タクシーが移動の主流に成ると思われます。日本国内で比較的長距離を移動する鉄道、例えば新幹線や特急車などの需要は失われませんが、とりわけ在来線はほとんど使われなくなるでしょう。

そうなると、輸送コストの面から貨物のみに切り替えて運用するか、そのほかの対策を打たない限り鉄道各社も大きな打撃を受けることになります。

鉄道の衰退は地価に対しても大きく影響します。交通手段の主体が自動運転車に移行した未来では鉄道が衰退するので一部の主要な駅を除いて、駅近の価値が大きく下がり、郊外の広いスペースの需要が高くなるでしょう。

また、自動運転車は自律的に郊外の駐車場を探すことができるため、都心や駅近に駐車場を確保する必要がなくなり、土地の供給が増えます。したがって、駅近の高騰した地価は暴落し、逆に駅からある程度離れた土地の価格が相対的に高くなってくるはずです。

これから不動産の購入を考えている場合は、駅近の高額な物件を買うことが最前なのかは良く検討する必要があります。

景気が悪くなる

地価の下落に加えて自動運転の実用化によってほとんど全ての運転手関係の職は失われます。

バスやタクシーの運転手を始め、中・長距離のトラック運転手、郵便や宅配のドライバーなど、運輸や送迎に関連する多くの職種で人員削減が起きると思われます。

少し古いデーターですが平成24年度に行われた就業構造基本調査の結果では自動車関連の輸送業に従事する人の数は約150万人となっています。さらに配達員を含めると210万人以上になります。これは平成24年時点の労働人口6211万人の3%に相当します。

つまり、自動運転の普及によって新たな雇用が生まれない場合、およそ3%も失業率が上がることになります。これは最近(2019年)の失業率が約2.5%から、一気にリーマンショック時(約5.5%、2009年)の失業率まで悪化することを意味しています。

いくら最先端の技術によって人々の利便性が向上するといっても、これだけ多くの失業者を生み出してしまう可能性があるため、自動運転の導入は雇用対策も合わせて議論していく必要がありそうです。

まとめ

完全自動運転によって私たちの生活にもたらされる影響は計り知れないものになるでしょう。自動運転自体は私たちの生活の利便性を間違いなく向上させる素晴らしい技術です。

しかし、その安易な導入にはかなりの経済的リスクが潜んでいることが想像できます。国や地方自治体はそのリスクを最小化するための政策をしっかり実施したうえで、安心して自動運転の恩恵を受けられる社会を実現して行かなくてはなりません。

また、私たち個人のレベルでも鉄道の衰退や不動産価値の下落についてはしっかり考えていかないと、大変なことになりそうです。10年後の未来は遠いと思っていてもあっという間ですので、たくさんの人が幸せになれる形で自動運転技術が普及すると良いですね。

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