【直感で理解する】わかりやすい量子力学 (1)「そもそも量子力学ってなんなの?」

皆さんこんにちは、はてなクマです。

【直感で理解する】わかりやすい量子力学シリーズ第1回目の本記事ではそもそも量子力学とはどのような学問なのか、どういった背景で誕生したのか、と言うことについて迫ってみたいと思います。

このシリーズは量子力学に興味はあるけど、まだ難しい数学は習っていない方、もしくはそこまで踏み込んだ内容は必要ないけどざっくり量子力学について知りたい方をイメージして執筆しています。

私は仕事柄、毎日量子力学を使っていますが、身近な人に「量子力学」って何か知ってる?と聞くと、大体は聞いたことはあるけど、よくわからないと言う反応が返ってきます。量子力学がわかりにくいのは、量子力学で扱う「量子」というものが私たちの直感とは全く違う振る舞いをすることが大きな原因です。ですが、一旦量子の考え方を身につければ量子力学はとても面白いものなのです。量子力学は私たちが世界を観察するときの感性をアップデートしてくれます。これまで当たり前だと思っていた世界を決めるルールが、実はもっと大きなルールの1つの側面にすぎなかったということを教えてくれます。

難解な数式なんて使わなくてもその世界観をお伝えすることは十分に可能です。まずは古典物理学が当たり前の世界からどのようにして量子力学への扉が開かれたのかについてみていくことにしましょう。

古典物理学の限界

時は19世紀、物理学における様々な問題は全て解決され、物理学者の間でも物理学にこれ以上大きな進展はないだろうとの見方が一般的でした。それまでに確立されてきた物理学の分野は、皆さんもよくご存知のニュートン(1643〜1727) が作り上げたニュートン 力学、そしてマクスウェル(1831〜1879)が完成した電磁気学、18世紀半ばから19世紀にかけて起こったイギリスの産業革命と時を同じく発展してきた熱力学などがあります。

20世紀に入りアインシュタイン(1879〜1955)が提唱した相対性理論は、これまでの常識だったニュートン 力学と電磁気学の適用範囲を大きく発展させる革新的なものでしたが、量子力学を用いていない、と言う意味で古典物理学の範疇に入ります。相対性理論に関してはここでは踏み込みませんが、当ブログでもいくつか記事を執筆していますので、ご興味がありましたらぜひご一読ください。

さて、話を元に戻すと19世紀までに完成されたと思われていた物理学ですが、19世紀の終わりに入ってほころびが見え始めます。まず、1つ目は黒体輻射問題です。例えば火山から噴出されたマグマや高温に加熱された金属が光を当てなくても真っ赤に光っているように、物質が高温になると自発的に光を放つようになります。これは高温の物体がもっているエネルギーが光として外に放射されるために起こると考えられますが、古典物理学では物体の温度と放出される光の色(スペクトル)の関係を説明することが全くできませんでした。

もう一つ、古典物理学の限界をあらわにした現象に光電効果があります。光電効果は金属に対して光を照射するとそこから電子が飛び出してくる効果です。これも、光が波であると言う立場をとる古典物理学では光の強度や波長と飛び出してくる電子の個数・速度の関係を説明することに失敗し、20世紀に入るまでなぜこのような現象が起こるのか説明することができませんでした。

極め付けの一撃は原子の構造に関する困難です。ラザフォード(1871〜1937)が行った金箔によるアルファ線の散乱に関する実験から、原子の構造は正電荷を帯びた大部分の質量が狭い領域に存在し、その周りを負電荷を有する電子が取り囲んでいるというモデルが有力になりました。これは今日では原子核とその周りを回る電子として理解されています。ところが、このモデルを認めると、古典物理学では歯が立たない難問が浮かび上がってきてしまうのです。

まず、古典物理学では原子スペクトルの説明ができませんでした。様々なガスを放電管の中に入れて電気を流すと、それぞれのガスに応じた光が放出されます。ラザフォードの原子模型に基づく古典物理学的な理解では、この原子スペクトルはボワ〜と広がった色(波長)を持つはずでした。ところが、例えば水素原子から放出される光はいくつかの、極めて鋭い輝線が観測されました。

これは原子モデルがラザフォードの説明では不十分であることを示しています。また、さらに困ったことに荷電粒子である電子が正に帯電した原子核の周りをぐるぐる回っているとすると、電子は電磁波としてどんどんエネルギーを放出してしまい、あっという間に原子核に墜落してしまうことも古典電磁気学から予言されます。これでは原子が安定に存在できるはずがありません。つまり、ミクロの世界における物理現象を説明しようとした時に、古典物理学では全く不十分であることが決定的になったのです。

古典物理学はなぜうまくいかなくなってしまったのか?

お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、古典物理学に限界を突きつけた物理現象は全て光と電子に関連するものでした。これらは手に取ることもできませんし、今日の科学技術を使ったとしても「そのもの」を見ることはできません。我々が普段生活している大きさのスケールから比較すると、光も電子も途方もなく小さいものなのです。

完璧だと思われてきた古典物理学が、20世紀初頭になぜここまで打ちのめされたかという答えを先に言ってしまいましょう。それは古典物理学では「光は波である」「電子は粒子である」と考えられてきたためです。な〜に当たり前のこと言ってるんだ、と思った方は考え方をアップデートする絶好のチャンスです!

物理学を進める上では、通常取り扱う対象を粒子か波に設定しなくてはなりません。粒子の場合は実態がある、「手に取れる物」を想定しています。たとえそれがどんなに大きくても、粒子の塊として表現できますし、どんなに小さくても、それと同じぐらい小さなピンセットを用意できれば確実につまめる、という設定をするのです。

また、対象を波とする場合は、波を伝えることのできる媒質が空間を満たしていて、その媒質の振動が伝播していくことを考えます。水面を伝わっていく波面などがまさにその例ですね。あとは花火や雷などの大きな音も空気を媒質として伝わってくる波です。ちなみに光だけは媒質を必要としない特殊な波ですが、これも古典物理学の範囲では全く問題なく取り扱うことができていました。

古典物理学で考えられてきた、光は波で電子は粒子であると言う常識は黒体輻射や光電効果、原子スペクトルの前に脆くも崩れ去ってしまいました。それでは一体、何が真実なのでしょうか。

量子力学が取り入れた新しい考え方

もうお分かりになった方もいるかもしれません。そうです。「全てのものは粒子であり、そして波である!」と言うのが量子力学が導き出した答えでした。このヘンテコな物体?物質?特徴?を有するモノのことを今日では「量子」と言います。光電効果の説明のために、1905年にアインシュタインが提案した光量子仮説が、粒子であり波である初めての「量子像」の誕生でした。アインシュタインはこの成果によって1921年にノーベル賞を受賞しています。

量子力学の主張はこうです。物質や波を構成する要素を十分遠くから見ると、それらは粒子、もしくは波であると言うことができます。つまり、粒子か波のどちらか一方として分類できるのです。ですが、近づいてよ〜く見ると、虫眼鏡とか顕微鏡とかそう言うレベルじゃなくて、本質的に切り分けられないくらいまでめちゃくちゃ細かくみていくと、最後の最後は粒子の性質と波の性質を併せ持った「量子」に行き着くのです。

この「量子」の従う運動法則が量子力学です。身の回りにあるありとあらゆるものを細かくしていくと、いずれは最小単位である量子に行き着きます。こういった極小の世界ではニュートン 力学やマクスウェルの電磁気学などの古典物理学が現実を説明できなくなってしまいます。

新しい概念である「量子」には、さらに我々には直感的に理解することが難しいいくつもの性質があります。代表的なのは「不確定性原理」や「重ね合わせの原理」などです。これらは、我々が通常生活している中では経験し得ない奇妙な現象で、その内容をちょっと聞いただけでも、そんなことあるわけねぇ!と叫びたくなるような内容です。これらについては別の記事で詳しく触れることにします。

量子力学を勉強する意味について

さて、こんな直感に反しまくっている学問を学ぶ意味なんてあるんでしょうか? 日常生活で役に立つ場面なんてほとんどないはずです。

実は、理系学科を目指す方や、医学・工学・理学系の業務に携わる可能性のある方には量子力学はとても重要な学問なのです。今日では、身の回りに量子力学によってデザインされ、製造された物品があふれ返っています。量子力学なしに現代の利便性の高い生活はあり得ないのです。量子力学を使いこなす必要はありませんが、量子力学のエッセンスを知っていると物事の本質や様々な製品の原理を理解する際に大きな助けとなるでしょう。

それでは、そういった理系の学科にも進まないし、文系業務しか望まない方々は量子力学は不要な学問でしょうか? いえいえ、面白いのでぜひちょこっとだけ学んでみて下さい。量子力学は人類が解き明かした自然界を表すルールとしては最先端の学問体系です。実は世界の理(ことわり)はこう言うことになってるんだ、と知るだけでも必ず皆さんの感性をアップデートしてくれます。

今日の世界では、船で海に出てまっすぐ進み続けると、いつか滝にぶち当たりそこから転落する、なんてことを信じている人はほとんどいません。これは17世紀の初頭にガリレオ・ガリレイが地動説を唱え、現在ではそれがいくつもの科学実験によって証明され、人工衛星やロケットによって宇宙空間から撮影された地球が、紛れもなく球体であるという事実から、ほぼ全ての人類が地動説を信じているからです。ですが、ガリレオ以前の世界では、地球は平らでありその他の全ての天体は地球を中心として回っているのだ、という天動説が信じられていました。その当時の人に地球は球体で、太陽の周りを回っているんだよ、なんていっても相手にされないでしょう。

それと同じことが量子力学についても言えます。量子力学について学んだことのない人は、物質っていうのは粒子だし、光は波だと思い続けるでしょう。この世の全ては光でも波でもある量子から構成されている、なんていう事実は当然受け入れ難いものです。ですが科学は正しいのは量子力学であることを明確に証明しています。かつて世間に広く信じられていた天動説に代わって、次第に地動説が浸透していったように、極小の世界を作る光や電子たちは粒子と波の性質を併せ持った「量子」である、という新しい常識がいずれ浸透していくでしょう。この新しい感性を身につけることで、最新の科学技術に対するアンテナが高まり、自然現象の捉え方も変わっていくでしょう。量子力学とは極小の世界の住人たちの振る舞いを調べる学問ですが、私たちの自然に対する直感をアップデートしてくれる、そんな学問だと思います。

まとめ

いかがでしたか?

1900年前後、人類の計測技術が進化したことによって古典物理学に限界を突きつける新しい現象が次々に見つかりました。ここから生まれた新しい学問が量子力学です。量子力学は全てのものの最小単位である「量子」は粒であり波であるという、一見奇妙な性質を仮定することでこれまで古典物理学では説明不可能だった物理現象を見事に説明しました。この新しい考え方を手に入れたことによって、人類はミクロの世界を縦横無尽に飛び回ることができるようになりました。この「量子力学」という学問なしには今日の科学技術は成り立ちません。また、量子という存在を知っているだけでも自然の法則に目を向ける機会が増え、きっと皆さんの新しい感性を育んでくれるでしょう。

実は本記事でご紹介しました量子力学が誕生した頃の、粒子と波の性質を併せ持つ「量子」を仮定することで様々な自然現象を説明する試みのことを、前期量子論と言います。前期量子論の世界では様々な物理現象がなぜ起こるのかという問いに対して、量子を用いることで明快な答えを出すことに成功しました。しかしここから量子論はさらに発展し、量子が持つ普遍的な性質を完全に表す方程式が誕生します。これが量子力学です。この量子の振る舞いを完全に記述する方程式の誕生により、これまで想像すらされていなかった量子現象がいくつも予言され、そして実証されていきました。本記事でお話させていただいた前期量子論は、そんな奥深い量子の世界の入り口に過ぎないのです。さて、さらなる驚きが待っている量子力学の話は次回以降にとっておき、今回のお話はここで失礼することにします。

ご興味のある方は、その他の記事についてぜひご覧ください。

最後まで読んでいただきどうもありがとうございました。

最新情報をチェックしよう!