【直感で理解する】わかりやすい量子力学 (2)「量子の直感的イメージはLegoブロック!?」

皆さんこんにちは、はてなクマです。

量子力学という言葉だけは聞いたことはあるけど、内容についてはほとんど触れてこなかった方は「量子」という言葉に大きな抵抗感があるのではないでしょうか。

確かに「量子」は私たちが普段生活している範囲では直接目で見たり、手に取ることができないものなので一体なんなのかよくわからないと思います。ですが、今日では身の回りには量子力学を応用することによって実用化されてきた製品が溢れており、量子力学は私たちの生活とは切っても切れない身近な学問分野となっています。

今回は量子力学の主役であるにもかかわらず、なかなか直感的にイメージすることが難しい「量子」ついて、まずはざっくりと、どんなイメージを持っておけばいいか、というお話をさせていただきたいと思います。

Legoブロックと量子の共通点

突然ですが、次の写真をご覧ください。この写真に写っているものはなんだと思いますか?

この写真はLegoの発祥の地であるデンマークのビルンにあるレゴランド内で撮影されたものです。ちなみに、このデンマークのレゴランドは1968年に開園された、歴史あるテーマパークだとか。

いい感じのヨーロッパの港町に見えますが、もちろん本物ではなくLegoです!モチーフになっているのはノルウェーのベルゲン市にある世界遺産のひとつ、ブリッゲン(Bryggen)と呼ばれる倉庫群です。遠くから見ると、本物の街並みに見えますよね〜。

え?本物の写真がみたいのですか?用意してますとも。次が本物のブリッゲンの写真です。

そっくりやないか〜い! ということでLegoブロックの偉大さを噛み締めているところですが、実は一見、小難しそうな「量子」という存在も、このLegoブロックだと思ってしまうと、案外すんなりと理解できてしまうものなのです。

もちろん、実際の量子とLegoブロックとは異なる面も多くあります。しかし、実際に量子力学を勉強している学生さんや専門家でもない限り、「量子はLegoブロック」くらいに思っておけばまず困ることはありません。その上でさらに深く知りたいと思ったら、より専門性の高い教材に触れればいいのです。

さて、Legoブロックと量子の重要な類似点は次の通りです。

  • それ以上分割できない
  • 超シンプルで小さい
  • 決まった単位でしか動かせない

順番に解説させていただきます。

それ以上分割できない

まず1つ目、「それ以上分割できない」というのがLegoブロックにも量子にも共通する大きな特徴です。

このLegoブロックは 1×1 と呼ばれるLegoの最も基本的なパーツの一つです。もちろんLegoには他の様々な特殊なパーツが用意されていますが、基本的にはこの 1×1 のブロックさえあれば、どんなものでも作ることができる、というのがLegoの一番面白いところです。

一方で、1×1 のLegoブロックはそれ以上分割することのできない最小単位であるということもできます。現実にはLegoブロックをノコギリなどで切断すれば、0.5個のLegoブロックを作ることも可能ですが、この切断された物体は、もはやLegoブロックとしての性質は失われてしまっています。

実は量子も全く同じ考え方で理解することができます。例えば代表的な量子である電子や光子は精密な実験をすると1個、2個・・・ と一つずつ数えることができます。一方で、現在の科学技術を持ってしても、0.5個の電子や、1.2個の光子などという中途半端な量子は見つかっていません。

電子や光子のように、それ以上分割することのできない物質を構成する最小単位のことを「素粒子」と呼びます。もちろん、素粒子は量子としてふるまいます。これらの素粒子は、小さいカッターを使えば半分に分割できる、という代物ではなく、原理的にそれ以上分割することができない「かたまり」なのです。

0.5個のLegoブロックを認めてしまうと、Legoの世界そのものが意味をなさなくなってしまうように、整数個ではない量子の存在を認めてしまうと世界が崩壊してしまいます。恐ろしい〜〜〜!

ちなみに、中学校の理科では化学分野で原子・分子が物質の最小構成単位であり、これ以上分割できないものである、と習います。これは半分正解で半分間違いです。原子や分子は確かにその物質を特徴づけるための最小単位であり、これ以上分解すると別の物質になったり、そもそも物質としての体裁を保っていられなくなります。ですが、高校生以上であればすでにご存知の通り、原子や分子は内部構造を持っており、さらに分解可能な粒子です。言わば原子でもまだ複数のLegoブロックから構成された大きな塊とみなすことができます。

超シンプルで小さい

もう一度 1×1 のLegoブロックを見てみましょう。今度は各部のスケール付きです。

https://brickarchitect.com/scale/より引用。

はい、めちゃくちゃシンプルです。Legoブロックでは 1p = 1.6mm という単位が決められていて、その整数倍の長さで統一された設計になっています。この縦長の形も、ブロック同士がくっついた状態から、ブロックを傾ける方向に力をかけることで簡単に外せるように工夫された形状です。まさに芸術!

そしてやっぱり小さいですよね。冒頭の写真で見たように、この小ささだからこそLegoブロックを膨大な数使うと、ありとあらゆるものを作ることができます。近づいてみればLegoブロックであることに気づきますが、遠くで見ている限りでは本物なのかLegoブロックで作られたものなのか見分けるのは難しいでしょう。極論ですが、十分な数のLegoブロックと足場さえあれば、地球そのもののレプリカをLegoで作ることも可能なのです。

最近では、ナノブロックという日本発祥のさらに小さなブロックが売られていて、そのサイズはなんとLegoブロックのさらに半分ほどです。私も実際にナノブロックで遊んだことがありますが、ブロックを外そうとする時なんて「爪がイってまう〜!」状態になります。指が太いので仕方ないのですが、皆さんもぜひ一度遊んでみてください。

さて、量子も実はとってもシンプルでメッチャ小さい存在なんです。量子が単体で持っている情報は質量、電荷、角運動量の3つだけです。例えば最も身近な量子である電子は次のような性質を持っています。

電子の性質

  • 静止質量:\(9.1 \times 10^{-31} \rm{kg}\)
  • 電荷:\(-1.6 \times 10^{-19} \rm{C}\)
  • 角運動量:\(\frac{1}{2} \hbar = 5.3 \times 10^{-35} \rm{J}\cdot\rm{s}\)
  • 色も大きさも形も、電子に対しては定義することができません。この3つの性質だけしか持たないなんて電子の世界にオンリーワンなんて考えは存在しないんでしょうね。多様性の重要性が叫ばれる昨今ですが、電子ほど没個性的な存在は他にはないでしょう。

    ちなみに角運動量で出てきた \(\hbar\) という記号はプランク定数 \(h = 6.626 \times 10^{-34} \rm{J}\cdot\rm{s}\) を \(2\pi\) で割ったものです。この記事では深入りしませんが、プランク定数も量子を考える上ではとても重要な役割を担っています。具体的にはどれぐらい物体に近づけば、量子っぽさが見えてくるか、という指標がプランク定数なのです。遠くから見るとあたかも本物に見える街並みが、近づいてみるとLegoブロックでできていることに気づくように、量子の集まりで作られた物体もプランク定数ぐらい小さなスケールで観察すると量子の性質をしっかりと観測することができる、ということです。

    さらに、ここで挙げた電子の性質はどの値を見ても想像できないくらい小さい量ですね。少しでもこのちい小を実感してもらうために1円玉を使うことにしましょう。

    今、皆さんの手の上に一円玉があるとします。その一円玉の質量は約1gです。

    もし、この一円玉が超巨大になって、お空で輝いている太陽(質量は約\(2 \times 10^{30} \rm{kg}\))と同じぐらいの質量になったとします。その時、なんと皆さんの手の上に置いてある一円玉がちょうど電子の質量に相当します。

    ちっさ〜!電子ちっさ〜!

    少しは量子の小ささを想像していただけましたでしょうか? 実際は質量と大きさは異なる概念ですが、サイズ感を感じ取っていただくにはこの比較で問題ないでしょう。 量子がここまで小さいが故に、19世紀末まで人類は量子の存在を見つけることができなかったのでしょう。

    決まった単位でしか動かせない

    そして量子とLegoブロックの共通点として1番重要なのが、この「きまった単位でしか動かせない」です。

    Legoブロックは当然凹凸をうまくはめ込まないと互いに接続することができません。つまりLegoブロックの位置は自由に決められるわけではなく、縦横に8mm、高さ方向に9.6mmという、1×1 ブロックの幅を最小単位とした飛び飛びの値でしか設置できないのです。

    Legoで遊んでいると当たり前すぎて何も意識しないことですが、私たちの身の回りではこんなこと絶対に起きませんよね。コップに入っているコーヒーを飲んで、コップをテーブルの上に置こうと思ったら、「あれ?10cm間隔でしか置けないな。」なんてことを経験した人はいないはずです。テーブルの上のどの位置でも、置きたいところにコップを置けるはずです。置けない人がいたら、ぜひご一報ください。

    実は量子でも同じような現象が起こるのです。ただし、量子の場合は位置ではなくエネルギーが飛び飛びの値になります。

    例えば電子が窮屈さを感じるぐらいのサイズの場所に閉じ込められると、閉じ込められた電子は飛び飛びのエネルギーしか持つことができない、という状態になります。電子を閉じ込めるためには、私たちの想像する物質でできた壁とか箱ではなく、静電的なポテンシャルを使って閉じ込めます。

    物理学においてポテンシャルとは可能性という意味ではなく、量子を含めた物体が感じる不安定さを表す指標です。ポテンシャルの高い場所にある物体は不安定であり、ポテンシャルの低いところにある物体と比較して大きなエネルギーを持っています。なので、物体は隙あらばポテンシャルの低い安定な状態に移ろうとします。

    私たちが身近に感じている重力も重力ポテンシャルとして理解することができます。中学校の理科で習ったように、重力が存在する地球上では物体の高さが高いほど大きな位置エネルギーを持っていると考えることができます。これは地球の中心から離れれば離れるほど重力ポテンシャルが高くなり、物体が不安定になるためです。逆に深い穴の中にある物体が穴の外に出るのは、高い重力ポテンシャルを乗り越えなくてはならないので、そう簡単ではありません。

    電子も同じようにポテンシャルを使って閉じ込めることができます。ただし電子はとっても軽く、作用する重力は極めて小さいので、重力ポテンシャルではなく静電ポテンシャルを使って閉じ込めます。ちなみに、このポテンシャルの単位は乾電池などでよく見かけるV(ボルト)です。電圧の単位と一緒ですね。

    電流もそうですが、ポテンシャルの高いところから低いところに向かって流れていきます。それは電流を担う電子の位置エネルギーが静電ポテンシャルによって決められており、電子もポテンシャルの高いところから低いところに流れるからです(正確には電子の電荷は負なので電流と電子が流れる方向は逆になります)。

    さて、話を本題に戻しましょう。今、皆さんがエレベータに乗っているところを想像してください。前後左右は壁に囲まれてますので、エレベータの中で大人しくしているしかありません。これは周りの壁が、位置エネルギーの壁となって皆さんを閉じ込めているからです。

    同じように量子の代表選手である電子をポテンシャルという名の位置エネルギーの壁で閉じ込めてやりましょう。電子も窮屈そうにしてます。

    さて、ここでエレベーターのスイッチを入れて、皆さんに位置エネルギーを加えていきます。皆さんは1階から1cm、10cm、そして1m、5mと徐々に高い位置へと「連続的」に移動していきます。それに従って、皆さんの持っている位置エネルギーも連続的に増えていきます。何も不思議なことは起こりません。あたりまえ体操です。

    ところが、同じような状況にある電子に位置エネルギーを加えようと思ってもうまくいきません。なぜなら、この電子が存在できるのは電子の位置エネルギーがちょうど2階とか、ちょうど3階にある時だけなので、高さ10cm分の位置エネルギーは受け入れることができないからです。まさに、Legoブロックを縦方向に積み上げる時、Legoブロックの高さの単位でしか積み上げられないのとそっくりです。

    結果的に電子を高いところに持って行こうと思ったら、1階分のエネルギーをまとめて与えるしかありません。それはトランポリンで飛び跳ねてもいいですし、ワイヤーフックを使ってもいいですし、手榴弾の爆風でもいいかもしれません。とにかく、連続的ではない何らかの方法で一気にエネルギーを獲得する必要があるのです。

    実は「この飛び飛びのエネルギーしか取ることができない」という量子の性質は物質を構成する原子の安定性を確保する上で極めて重要な役割を果たしています。正の電荷を持つ原子核の周りを回る電子は負の電荷を持っています。ですから、常に原子核と電気的な力で惹きつけあっています。

    古典物理学のみを使って考えると電子は原子核にたちまち墜落し原子が崩壊します。私たち人間はもちろん、世界中のすべてがたった一点に凝縮され、世界そのものが生まれていなかったことでしょう。一方、量子力学では量子が取りうるエネルギーが飛び飛びであるため、電子の取りうる最小のエネルギーが決まり、原子核の崩壊は起こりません。

    私たちが存在できるのも量子のおかげなんですね〜。ありがとう、量子!

    Legoブロックでは説明できない量子の性質

    ここまで見てきたように、Legoブロックを使うと一見難しそうに思える量子という存在を直感的に想像することができます。とは言っても、Legoブロックは実在する物体ですので説明しきれない量子のもつ不可思議な性質がいくつかあります。これらの性質は私たちが普段生活している環境では決して目にすることのないものです。

    具体的には

    • 粒子と波の両方の性質を併せ持つ(粒子と波動の二重性)
    • 位置と速度を同時に決定することができないという(不確定性原理)
    • 複数の状態を同時に取ることができる(重ね合わせ状態)

    という3つが量子の持つとても重要だけど直感的には理解しにくい性質です。一つ目の粒子と波動の二重性は、飛び飛びのエネルギー(エネルギーの離散化)を引き起こす根本的な要因であり、二つ目の不確定性原理にも深く関係しています。また、三つ目の重ね合わせ状態という量子特有の性質を用いることによって、既存のコンピュータの計算速度をはるかに凌ぐ量子コンピュータが実現できると期待されています。

    これら各々の性質はどれをとっても詳しく説明しようとする場合、長い文章が必要になりますので別の記事にまとめたいと思います。

    まとめ

    いかがでしたでしたか。

    「量子」という存在をまずはざっくりとイメージするためには、Legoブロックがちょうど良いモデルとなります。Legoブロックの持つ不可分性、小ささ、単純さ、そして飛び飛びの位置にしか置くことのできないことなどが、そのまま量子を理解するための直感的なイメージとして大変役に立ちます。

    もちろん、量子力学はまだまだ奥が深いので、Legoブロックとの共通点だけでは全てを語り尽くせませんが、まずは量子力学に対峙したときの緊張を和らげるための緩衝材としては大変優秀だと思います。

    量子力学は物質の最小構成単位である量子の性質を解き明かす学問ですが、つまりはLegoブロックの最小単位である1×1ブロックを支配するルールを見つけるための学問と考えても良いかもしれません。

    量子力学にあまり触れる機会のなかった方が、この記事を入口として量子力学に興味を持っていただけたら大変うれしく思います。

    最後まで読んでいただきどうもありがとうございました!

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