細くすると電気が流れやすくなる材料? 銅と逆の性質を持つ「CoSi」を発見

半導体チップの中では、膨大な数のトランジスタが金属配線によってつながれています。現在、その材料として主に使われているのが銅です。しかし配線をナノメートルサイズまで細くすると、銅では抵抗率が上昇してしまい、半導体のさらなる微細化を妨げる問題になっています。

ところが、香港理工大学を中心とする研究チームはコバルトとシリコンからなるCoSi(コバルトモノシリサイド)では、これとは逆の現象が観測されることを突き止めました。高品質な単結晶CoSiを薄くしていくと、抵抗率が最大で100倍以上も低下することがわかりました。具体的な電気抵抗率は厚さ約20 nmのCoSiで0.72 μΩ・cmに達し、同じ厚さの銅と比べて約10分の1しかありません。

さらに研究チームは、CoSiが大きな電流や450℃の高温にも高い耐久性を示し、高周波信号の伝送や実際のシリコン回路の配線としても動作することを実証しました。この成果は、学術誌「Nature Materials」に掲載されています。

半導体を小さくすると「銅配線」が問題になる

半導体の性能向上というと、トランジスタを小さくすることが注目されがちです。しかし、実際のチップにはトランジスタ同士をつなぐ大量の金属配線があり、この配線も同時に細くしていかなければなりません。

ところが銅では、配線をナノスケールまで細くすると、表面や界面で電子が散乱される影響が無視できなくなるため電気抵抗率が大きくなってしまいます。

その結果、配線を細くしたことによる断面積の減少に加えて、材料の抵抗率そのものまで上昇するため、急激に電流が流れにくくなるのです。従って、トランジスタを高速化しても、配線部分での発熱やリーク電流が問題となりチップ全体の性能を十分に高められません。

CoSiでは薄くすると「抵抗率」が低下する

研究チームが注目したのが、CoSiという半金属(電子と正孔の両方が伝導を担う物質)です。特殊な方法で高品質な単結晶CoSiの薄い板状試料を作製し、その厚さを変えながら電気的な性質を調たところ、CoSiでは銅とは正反対にサイズを小さくすることで電気抵抗率が小さくなったのです。

その鍵と考えられているのが、CoSiの表面に存在する特殊な電子状態です。CoSiは「トポロジカル半金属」と呼ばれる物質の一種で、内部を流れる電流とは別に、表面にも電気を運ぶ経路が存在します。

研究チームは、CoSiの電気伝導を「内部を流れる経路」と「表面を流れる経路」の二つに分けて解析したところ、表面には非常に電気を流しやすい経路が存在し、試料を薄くするほど全体の伝導に占める表面の寄与が大きくなることが示されました。

普通の銅の表面では電子が多く散乱されるため、試料を薄くして表面積が大きくなると抵抗率を増加させる原因になります。一方CoSiでは、表面が高い伝導性を持つ電流経路として働くことで、薄くしたときに電気抵抗率が下がります。この違いによって、銅とCoSiではナノスケールにしたときの抵抗率が正反対に変化すると考えられています。

トポロジカル物質の中でも特殊なCoSi

ただし、「トポロジカルな物質の表面が電気を流す」という現象そのものが今回初めて発見されたわけではありません。トポロジカル絶縁体やトポロジカル半金属では、物質内部とは異なる特殊な電子状態が表面に現れることが以前から知られており、CoSiでも表面が伝導を担うことは理論的に予測されていました。

今回注目されるのは、その効果が実際のCoSiで非常に大きかったことです。室温でも非常に低い抵抗率が得られ、同じ厚さの銅を大きく下回りました。さらに、研究チームはμm程度の厚さを持つ試料でも表面状態が伝導に大きく寄与していると報告しています。

しかも、この効果は理論から単純に予想されるよりも大きく、Nature Materialsの解説記事では、低温でバルク試料から薄い試料へ変えた際の伝導率の増加が約2桁に達する一方、理論計算では10 nm厚のCoSiでも50~70%程度の増加しか予測されていないことが指摘されています。

つまり、トポロジカル表面状態があるから当然こうなった、ということで片づけることができないほど、CoSiの薄膜化による抵抗率の低下は大きかったということです。なぜ実験ではこれほど大きな表面伝導の寄与が現れるのか、その詳しい仕組みにはまだ解明すべき点が残されています。

実際の半導体配線として使える可能性も検証

今回の研究のもう一つの重要な点は、低い抵抗率を測定しただけで終わらず、CoSiを実際の半導体配線に利用することを想定した試験まで行ったことです。

CoSiは1億A/cm²という非常に大きな電流密度を200時間加えても抵抗がほとんど変化せず、450℃で200時間加熱する試験でも高い安定性を示しました。研究チームは、CoSiの強い原子間結合がこうした高い信頼性につながっているとしています。

さらに、高周波測定では最大40 GHzまで信号を伝送できることが確認されました。研究チームは16 nm世代のシリコン製リングオシレーターの金属配線の一部をCoSiに置き換え、元の金属配線の場合と同じ94 MHzで回路が動作することも実証しました。

今回の成果は、「特殊な物質で面白い電気伝導を発見した」という基礎研究という側面だけではなく、ナノスケールで低い抵抗率を示す物性と、半導体配線に必要な耐久性や高周波特性を一つの材料で実証し、実際のシリコン回路で動作させたところまでが研究の重要な成果といえます。

本当に銅を置き換えるには、まだ課題がありそう

一方で、今回の結果をそのまま実際の半導体配線に当てはめることはできません。Nature Materialsの解説記事では、今回測定されたのは原子レベルで滑らかな高品質の単結晶CoSiナノプレートであり、実際の半導体配線とは形状や材料の状態が大きく異なることが指摘されています。

実際の配線は細長い形状をしており、半導体プロセスの中では多数の小さな結晶からなる多結晶しか作製できない可能性があります。結晶同士の境界や表面の乱れ、絶縁材料との界面が、CoSiの表面伝導をどの程度妨げるのかはまだ十分に分かっていません。

そのため、CoSiが本当に銅に代わる次世代配線材料になるかを判断するには、実際の半導体に近い細い配線構造を作り、その状態でも低い抵抗率と高い信頼性が維持されることを確認する必要があります。

それでも、微細化すると抵抗率が悪化するという銅配線の大きな弱点に対し、「表面の高い伝導度を利用する」という異なる材料設計の可能性を実験的に示したことにはとても意義があります。今回のCoSiに関する研究は、トポロジカル材料の特殊な電子状態を、次世代半導体の配線という実用技術へつなげる研究の一歩と言えそうです。

原著論文

Jiewei Chen, Jianmin Yan, Lingwei Fan et al.「Single-crystalline CoSi semimetals with high conductivity and reliability」Nature Materials(2026)

専門用語の解説

CoSi(コバルトモノシリサイド)

コバルト(Co)とシリコン(Si)が1対1で結びついた化合物です。今回の研究では、高品質な単結晶CoSiが次世代の半導体配線材料として調べられました。

抵抗率

材料そのものの電気の流れにくさを表す値です。配線そのものの電気抵抗とは異なり、試料の長さや断面積の影響を取り除いて材料を比較するために使われます。値が小さいほど、材料として電気を流しやすいことを意味します。

トポロジカル半金属

電子のエネルギー状態に特殊な構造を持つ半金属です。物質内部の電子状態と関係して、表面には内部とは異なる特徴的な電子状態が現れることがあります。CoSiでは、この表面状態が高い電気伝導に関係すると考えられています。

表面状態

物質の表面付近に存在する、内部とは異なる電子状態です。今回のCoSiでは表面の伝導経路が内部よりも高い伝導性を持つと解析されており、試料が薄くなるほど全体の電気伝導に占める表面の寄与が大きくなります。

インターコネクト(配線)

半導体チップの中でトランジスタなどの素子同士を電気的につなぐ配線です。現在は主に銅が使われていますが、ナノスケールまで微細化すると抵抗率が上昇することが課題になっています。

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